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2019年10月号②

「ケーキの切れない非行少年たち」宮口幸治 著/新潮新書
 医療少年院で、犯罪歴のある少年(少女)たちと接してきた著者からの衝撃の報告です。
表題の意味は、罪を犯して鑑別所や少年院に送致されてくる少年たちに、例えば、「丸いケーキを三等分してみて」と言ってもどうしたら良いのか分からない、そんな少年たちがとても多いということです。他にも、簡単な計算が出来ない、漢字を読むことが出来ない、簡単な図を模写することが出来ない、短い文を復唱することが出来ないなど、小学生レベルの認知能力、学習能力を持っていない少年の割合がとても多いということなのです。彼らは、自分の罪を理解し、反省をする能力自体がないのです。
著者は、もともと児童精神科の医師ですが、病院に来る子供たちというのは、発達上の問題に気づき「早く病院に連れて行って子どもを診てもらおう」というモチベーションを持った保護者のいる子供たちです。しかし、医療少年院に来る少年たちは、多くが小学校の低学年のうちから学習や認知機能に関する問題を抱えていながら、適切な支援が得られず、そのせいで勉強が苦手というだけでなく、友達からバカにされていじめに遭ったり、家庭内で虐待を受けたりしています。様々な問題行動を起こしても、「厄介な子」として扱われるだけで、罪を犯し、被害者を作り、逮捕され、少年鑑別所に入ってそこで初めて「障害があったのだ」と気付かされるケースが多くあるのです。
この本の中で改めて気づかされるのは、「良いところを見つけて褒める」、「出来ないことも‟個性だ”」と言ってしまう教育の危うさです。それは問題の放置、そして先送りにしかならないという著者の指摘は、私たち大人が肝に銘じるべきではないかと思います。